SPECIAL - 黒石ひとみ(ED&BGM担当)コメント

黒石ひとみ(ED&BGM担当)コメント公開日 2011/12/16
聞き手・文:日詰明嘉

音楽だけを聴いても『LASTEXILE-銀翼のファム-』の場面が浮かんでくる素晴らしい楽曲揃いでした。作曲にあたって、監督からはどのような形でのオーダーがありましたか?

黒石 まず、文章で「こんなシーンの曲がほしい」といただきました。そのほか鉛筆描きの背景やキャラクター設定やシナリオなどから、オーダーに応じた曲を作っていきました。シナリオを読んでいて、面白そうな場所があったら、それに合わせて作ることもありました。あと、今回はトゥランやアデス、グラキエスなど国ごとの楽曲が多かったですね。エリダラーダの地下レース場とか、場所ごとの設定が多かった気がします。千明監督は音響監督も兼ねられているので、すごく聴きこんでくださっています。さらにシルヴィウスの曲のように第1期の曲を使いたいという考えも最初からありました。私が忘れているような曲まで使ってくださるのは嬉しいですね(笑)。

無国籍でありつつもいろんな国を想起させる楽曲が多いのですが、どういう意識で作られたのでしょう?

黒石 前作のときはケルトっぽいものをやりたかったので、随所に散りばめました。今作では北ヨーロッパ的なイメージはありましたが、必ずこの場所という意識ではなく、色々なテイストを取り入れて作ろうと思っていました。最終的にさまざまな要素がミクスチャーされていればいいなと思います。

打楽器の使い方も印象的でした。

黒石 クラシカルなものだとティンパニを使っていますし、エスニックな楽器としてはタブラ(インド)、チェンチェン(インドネシア)、ダラブッカ(エジプト他)など日本のものではないパーカッションをいろいろ使っていますね。

日ごろから世界の音楽に触れる機会は多いですか?

黒石 そうですね。プリミティブで土着的なリズム感のものが大好きなんです。また、私自身が歌を歌うので、ポルタメント(音符と音符の間の音を滑らせるように出す奏法)の音を出せるフレットのない楽器とか、半音の間の音が出せるような楽器も好きですね。

黒石さんの音楽の特徴として、黒石さんご自身の独特な“エンジェル・フェザー・ボイス”を活かした楽曲がありますが、これはどういう意図で作られるのでしょう?

黒石 歌を入れる時は、ポルタメントの要素を声で表現したい時なんです。その時もただ「ラララ」で歌うとつまらないので、造語を使って作ります。メロディを歌いながらどうやったらよく聞こえるか、メロディが導くままに発声していきます。それを自分にしか分からないような言葉や発音記号で楽譜に残して、多重録音していく形ですね。

音楽的なルーツとして影響を受けた音楽家はいらっしゃいますか?

黒石 映画がすごく好きで、家ではほとんど映画を観て過ごしています。エンニオ・モリコーネ(代表作『ニュー・シネマ・パラダイス』)の美しいメロディラインが好きですし、ジョン・ウィリアムズ(代表作『スターウォーズ』)の音楽も面白いと思います。直接影響を受けているかどうかは自分では分かりませんが、聴いているのでなんらかの影響があるかもしれませんね。

黒石さんにとって、初めて劇伴を作られたのが前作の『LASTEXILE』だったそうですね。

黒石 そうですね。単発ではその前にもありましたが、シリーズで担当した最初の作品です。当時は最初で最後の機会かもしれないと思っていました。劇伴とはこういうものだという決まりきった縛りもなく、いただいたメニューとシナリオを見てこの場面にあったらいいなと思えるものを作っていった感じです。その結果、皆さんのご評価をいただくことができました。

ご自身でオリジナリティについて考えることはありますか?

黒石 なかなか自分では考える事はしませんし、あえて自分らしさを出さなきゃと考えたこともありませんね。あくまでも作品があって、それを主と考えて作っているので、黒石らしさがあると思って下さるかどうかは、聴いた方の判断でいいと思います。ただ、私のキャリアは歌からはじまっているので、POPS寄りなところは少しあるかもしれませんね。

ちなみにPOPSだとどんなアーティストがお好きですか?

黒石 最近はあまり思いつかないのですが……学生のころに聴いたマイケル・ジャクソンやスティービー・ワンダーといった偉大な人たちから影響はされているとは思います。とはいえ、私のスタイルは自然とできあがっていった部分が大きいと思います。コーラス自体は子供のころからやっていたので、そういう響き方はどこかで出てきてるのかもしれませんね。クラシックには決まりごとがあるんですけれど、私自身は全然それを考えていないので、いろんなものがミクスチャーされていると思います。民族音楽的なものもすごく好きですし、ジャズの要素やポップスの要素が入っているものがゴチャゴチャになったものが出ているという感じで、もしかしたらそれが私らしいものなのかもしれないですね。

エンディング曲で歌われている「Starboard」はどんなイメージで作られましたか?

黒石 「Starboard」とは「面舵を取る」という意味です。ジゼルは背中越しにファムを見つめて、舵を切るのを信じている。逆にファムにはジゼルが常に自分の後ろにいてくれるという安心感がある。そういう信頼関係を持てる人が身の回りにひとりでもいてくれれば幸せだと思えるんじゃないかなと思って、安心できる人や場所をテーマにしてみました。歌詞については、監督からは「翼」と「空を飛ぶ」という言葉は使わないようにと難題をいただいてしまったんです。『LASTEXILE』のエンディングですからつい言ってしまいますし、実際に作った何曲かで声高らかに歌っていました(笑)。空を飛んでいくという姿は壁もないし、行き先がどこかもよく分からない。これは生き方そのものだなと。舵をどちらに取るか人生の岐路を重ねあわせた歌にしようと考えました。また、生きていく中で躊躇した時に背中を押してくれるひと言で踏み出せることもあると思うんですよね。勇気を出して自分が行きたい行き先に行っていいんだと取ってもらえたら嬉しいですね。第8話のEDでは違うバージョンが流れましたが、あれは造語バージョンなんです。サントラと同時に発売されたCD『Angel Feather Voice 2』には、さらに違う3つ目のバージョンも入っているので、ぜひ聴いてみてください。

では最後に、あなたにとって『LASTEXILE』とは?

黒石 私にとっては「安心して帰れる場所」です。私が最初に手がけさせてもらった作品ですので、この作品に戻って来られたというのは嬉しかったです。やっぱり安心できる場所で、はじめて作る作品とはぜんぜん違うと思います。新シリーズですが『LASTEXILE』の世界観を知っていて、そこが自分の原点です。キャラクターの動かし方は変えていらっしゃいますが、根本にあるものは変わらないと思いますし。前作が終わって続編があるならやりたいとずっと思っていたところに戻って来られたというのは、やはりすごく大きいですね。

その中でのびのびと作れましたでしょうか?

黒石 ところがいざやり出したら難しいんです(笑)。やり出したら前作のものをどこまで踏襲するのかとか新しいテイストをどこまで出すか、あるいは全く出さないで書くのか。8年の間が空いていて、視聴者の中での時間経過のせめぎあいをすごく考えましたし、監督からも多くの宿題をいただいたのが難しかったですね。ただ、それも道をつけてくださっているからだと思います。これから作る曲についても頑張ってついていきたいと思います。期待して下さい!